史上最大あるいは世界最大の生物について

1998年にアメリカ、オレゴン州の東部で発見されたキシメジ科のキノコ、オニナラタケ(Armillaria ostoyae)の菌床は、総面積8.9平方キロメートル(890万平方メートル)に及び、推定重量はおよそ600t。推定年齢は約2400歳ということです。

確かに菌類は明確な寿命もないし、条件次第では大きく成長します。だから半径数十〜百メートル程度のコロニーは珍しくもないのですが、よくこんな山一つ覆い尽くすほどの大きさにまで成長したものだと思います。

世界最大の生物::幻影随想より

アフリカゾウ < シロナガスクジラ < セコイア杉 <<< オニナラタケ(キノコ)

世界最大の生物個体というと「竹」が候補にあがることがある。地下茎を伸ばして次々と芽をだし巨大な竹林を形成する生物。1個体あたりの大きさ(竹やぶ全体が単一個体だったりすることもある)もさることながら、成長速度も恐ろしいものがある。面積と言う点では厳しいが、質量でならリンク先の例のキノコを超える可能性もある。ただ、質量という観点で竹やぶは最大の生物ではいようだ。ちなみに、巨大なキノコと言うと4億年前の地層から発見された8mの大きさのある謎の化石の正体がキノコだったという記事を思い出した。謎の化石は巨大キノコ

高さ部門ではセコイア杉(〜115m)、面積ではArmillaria ostoyae(8.9km^2)だが、総体積や質量では「Pando」なるポプラ科の植物が(面積は43ヘクタールであるが)6615トンで史上最大とされる。Pandoはexpandの単語から想像できるようにラテン語で「広げる」の意味を持つ巨大なコロニーだ。同一のDNAで構成され組織的にはつながっているとはいえ、こういうやつらを単一個体として認めるかについては議論が分かれるところだが根を通してぼこぼこ増えるやつらは強い。ちなみに地上部分ただの森にしか見えない。個別の幹はそんなに長生きしないし森の年齢といったほうが適切だが、樹齢も推計8万年と地球最長老クラスで、地上部分の幹や葉は幾度も生えては枯れを繰り返しながら悠久の時を越えてきた*1。写真は質量部門世界最大である「Pando」この一帯すべてが一つの根から生えた生命体だ。

「高さ」と言えるかわからないが「Macrocystis pyrifera」という昆布がものによっては200mの長さに達するという噂もあり(通常は45m以下)セコイア杉(115m)を超える。定義によるが単一の幹では世界一長い生物(植物)か?

*1:この手の年齢は現在の成長率からの推計が主だったりするのであまり真に受けないこと。例のPandoは100万年生きているなんて主張している人がいる一方、1万年程度だと言う人もいる。それに長寿競争での8万歳というのも、2億歳のバクテリアみたいな類との線引きが難しい。

全地球史上で最大の生物個体は?

史上最大の生物個体となると、化石を含め実在が確認されている中では現存個体であるArmillaria ostoyaeおよびPandoが暫定史上最大個体であり、これ以上大きな生物が過去に存在した痕跡は発見されていない。だが、残っていないだけで現存種より大きな個体が過去に一度でも存在したであろうことは、生物の数十億年の歴史を考慮すればほぼ確実だ。数十億年での史上最大個体がたまたま現代に当たる可能性は限りなく低い。それが植物なのか菌類なのか私には想像がつかないが、どちらにしろ根を通じて増える類である蓋然性は高いし、巨大に成長するには数万年を超える長い時間と安定した環境が必要だ。ただし、単一の幹という部門での世界最大質量の樹木は3600トンであり、質量部門最大生物の半分にも達するので例のオニナラタケのように散開したものが史上最大だったとは限らない。

地上動物部門では非公認ながら60m超の体長を有していたとされる最大の恐竜「Amphicoelias」といわれる(下:ヒトとの比較は写真参照)。ただしこ推計値の信憑性のほどはやや疑問符がついている。公認の記録では35m程度(セイスモサウルスなど)がで史上最大の動物だろう。もっとも尻尾と首が長いだけで、胴体部分だけで見ればアフリカゾウをそれなりに大きくした程度だ。


海洋生物では長さ60mぐらいの細長い生物がはるか太古にいたような記憶があるがほとんど覚えていない。今でもクラゲの中には触手を40mぐらいのばすやつがいるようだけど(キタユウレイクラゲ)一応体長だよね。つまり、シロナガスクジラより体長が長い海洋動物ということになる。

哺乳類最大のシロナガスクジラではあるがこれは地球史上を見ても有数の大きさを誇る海上生物だ。33mという最大個体記録は現存種であることによる観測個体数の多さに支えられており、サンプルの少ない過去の生物と一概には比較できないが、シロナガスクジラに匹敵する大きさの種はほとんど存在しない。動物で200トン以上という体重は自力で支えられる限界を超えており、地上動物では不可能に近い数値だが、それに加えて種を維持するにはある程度の個体数が最低限必要であり、食物連鎖のピラミッドの頂点はそれほど大きくなれないこと、あるいは代謝を補うのに必要な餌の収集効率を考えると、いくら自重を支えなくてよい海中だからといって限界がある。シロナガスクジラはその限界に近い個体だ。

同一のDNAを有した連結有機体という意味でオニナラタケより遥かに大きな"個体"、何百キロもの大きさの生物(植物なり菌糸体なり)が地球史上出現していた可能性があったかというと厳しいと考えている。それほどの大きさに成長するには地上にしろ水中にしろ何百万年もの時間と豊かで安定した環境が必要であり、また、大きくなり過ぎればウィルスや新たな外敵に晒される危険性は高まる。同一遺伝子で構成されたコロニーで地上最長寿と考えられているものでせいぜい10万年。1万年に達するものすら数えるほどしか無い。たとえ癌のように不死増殖であっても何万平方キロメートルにも成長する前に病気や気候変化等にやられるだろう。とうわけで、地球史上をみても現役チャンピオンをそれほど大きく越えることは無かったと考えている。