「放射性物質を含まない水」など物理的に存在しない

原電施設とはいえ、非管理区域から60kBqの放射性物質が含まれた冷却水が1.2KL漏れた程度でニュースになる時代です。記事を書いている当人にはその量がどれほど分かっているのか非常に興味がありますが、そういっている私は社会通念が分かっているのか非常に興味があるところです。

ちなみに、人間の骨にはカリウムが含まれていますが、天然のカリウムには放射性同位体であるカリウム40(半減期13億年)が0.01%含まれておりわずかながら放射線を出します[4kBq]。また微弱ですが人体を形作る炭素には炭素14という同位体が極微量含まれて折りこれも2.5kBq程度の放射能を有しています。成人1人の人体に含まれる放射性物質はトータルで8kBq程度になります。

また、大気や水にはラドン放射性同位体が含まれており、開放された大気で5Bq/kL、密閉された室内等で10-40Bq/kL。条件によってかなりばらつきますが部屋あたり0.2-1kBq程度でしょう。もっとも、部屋に関してはコンクリートや岩盤も放射線を出すのでそちらの方の影響の方が強いでしょう。

放射能の単位[ci]として標準的に用いられていたラジウム(半減期1600年)は1gあたり37GBqの放射能を有し、また高レベル放射性廃棄物のガラス体は1本あたりPBqのオーダー。さすがにこの辺は近寄りたくないですね。

電気系に馴染みの単位で言うと、パワーのオーダーは1kBq〜nW、ガラス体〜kWといった感じです。高レベル廃棄物はちょっとした暖房器具として使えるくらいの熱を発生させます。放射線の電離作用は局所的であり少ないエネルギーで人体に多大な影響を与えるので仕事率による単純な比較は無意味ですし、弱い線源だからといって間違って人体に取り込まれれば長期的な影響はでますし、線源に近い所ではそれなりの強度があるので軽く扱えば痛い目にあいますが、感覚としてはこんな感じです。

急性障害による半数致死の線量当量としては4Sv、線種によりますが成人で大雑把に100ジュールのオーダーで被曝すると色々とマズイです。〜4Sv(体重1kgあたり4Jのガンマ線を浴びる影響相当量)は多くの生物で共通のオーダーです。そのあたりになると細胞1個あたりの染色体の損傷が5桁のオーダーになり、ブツブツと切断されるケースも増えてくるので、修復や生命維持が困難になるようです。

今回の流出事故[60kBq]は"大人8人"が発生させる放射線に匹敵する放射性物質が漏れたことになります。恐ろしいことです。