南部陽一郎の講演でスヤスヤ寝ていた私がノーベル賞研究を解説する準備をはじめてみる

南部の講演は、むかしNHKでやっていたリラクゼーション番組「宇宙デジタル図鑑」並みの寝心地。それはさておき、

人物評:南部陽一郎、伝説上の怪物

なぜ「大してうれしくないか」- 白のカピバラの逆極限 S144-3
「南部先生にノーベル賞が出せるとはノーベル賞も箔がついたなあ。」

まさかの在庫処分、もとい残弾撃ちつくしセールからはや2日がたった。何よりこのタイミングで南部さんが受賞した衝撃は世界中を駆け巡った。祝杯だの飲み会だので家に帰ったのは午前6時、ドイツの共同グループからお祝いのメールが届いていた。獲らせないと差し障りのある方々が本当に獲ってしまって、事後感というかなんだかポッカリと穴の空いた気分だ。来年からwktkできるか不安になる。

彼の格付けについては人によって色々な見方があるとはいえ、地球上に現存する物理学者の頂点、歴史上を含めても特に際立った業績を残した偉人と言って過言ではない。ディラックファインマンシュレーディンガーと並べてまったく遜色の無い存在だ。

彼の手法は、シュレーディンガー方程式やニュートン運動方程式と同様、未来永劫に渡って利用されることになる。

特に南部ゴールドストンの定理は物理学の至る所に空気のように組み込まれている。高校数学における「三平方の定理」のようなものだ。ヒッグス粒子は真空の自発的な対称性の破れによって生じた南部ゴールドストーン粒子としての性質を有しているし、陽子や中性子をつなぎ止めているパイ中間子カイラル対称性の破れによる南部ゴールドストン粒子だ。磁性体や超伝導も南部ゴールドストンの定理と関連している。変わった例だと、量子場脳理論でシナプス間の領域で水分子が整列することにより対称性が破れ、光が質量を獲得して南部ゴールドストン粒子として振る舞い、それが記憶や意識に関わっているという奇抜な説が、なんて書いていてゲシュタルト(ry

また、理論の一大拠点であり東大/京大の成績上位3%を浪費する超弦理論において、「南部・後藤の作用」は教科書の最初にでてくる最もシンプルな不変作用だ。やや不正確な表現になるが「もっともシンプルなストリングの運動方程式」といったところ。彼は教科書に載るレベルどころではない。教科書の最初に載るレベルだ。アメリカ人だろうがイタリア人だろうが、彼を知らない人間はモグリだろう。ヘーゲルを知らない人間が文学部にいるようなものだ。

なんて言っていると、昔から某匿名掲示板の物理板に湧いている南部信仰やウィッテン教団の人達みたいだが、とにかく彼はずば抜けた存在だ。

ネットでは国籍や生い立ちについていろいろとと騒いでいるようだけど、何人であるか以前に彼が人類であることですら既に喜べる。「信じられるかい。彼、地球の研究者なんだぜ。」日本で生まれたり暮らしたという事実だけで祝杯を挙げる理由として十分すぎるほどだ。世界最高の物理学者がアメリカで研究していることを嘆く必要はない。ただの不可抗力だ*1

や、さっきから南部さんのことばかり語っているけど小林さんも益川さんも獲って当然の人たちだ。

ノーベル賞と運と呪われしカビボ

おそらくSSC中止やLEP閉鎖/Tevatronで何度も先延ばしになったHiggs粒子*2の発見による画竜点睛を待っていてこのような不遜の事態になったと思われるが、彼がいままで受賞しなかったのは単に運が悪かったとしかいいようが無い。すでに平均寿命を超えた高齢であるし、カイラル対称性などがついて既に12000点以上の高い役であがれる状態だったのでLHCの結果による役満を待つことは無い。

今、超絶に運が悪いといえば、カビボ小林益川行列(CKM行列)やカビボ角でおなじみのニコラ・カビボだ。南部の緊急受賞とぶつかってしまったのでは対抗しようもないが、小林益川との共同受賞が潰え絶望感が漂っている。いまごろ無言で泣いていてもおかしくない。イタリアのメディアも日本にノーベル賞を盗られたとすこしキレ気味だ。

小林益川理論の核であるCKM行列の各成分はカビボ角の組み合わせによって構成されている。カビボの研究はゲルマン(クォーク論で受賞)らの論文ですでに示唆されていたなんて物言いはあるが、彼もまたノーベル賞を獲っておかしくない研究を残した人だ。この辺がノーベル賞の不条理なところだが、まだ73歳だから可能性が激減したとはいえ完全に断たれたわけではない。

一方、すでに80に足を踏み入れつつあるがあと5年生きれば高確率で天からノーベル賞が降ってくるピーター・ヒッグスの未来は明るい。まだ、自分で歩けるようだしおそらく大丈夫だろう。

(つづく)

続きは理論の内容を中心にしようと思うけど、ネット上でのコメントをみても「さっぱりわからない」だとか「宇宙語」みたいな感想が多いので、彼らは何がわからないのかさっぱりわからないという有様、竹内薫やキッズサイエンスの劣化版みたいのをつくるのもあれだしどうしようかなあ。
ブログは双方向なので、ここが分からないという指摘や数式推奨/非推奨などのリアクションがもしあれば対応はできると思う。

次回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ(略)の解説をはじめてみる(2)

第1回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ寝ていた私がノーベル賞研究を解説する準備をはじめてみる
第2回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ(略)の解説をはじめてみる(2)
第3回素粒子とは何か

*1:日本が英語を公用語にした上で毎年20兆円ぐらい国費を投入して世界中から研究者をかき集めていたならともかく、超大国アメリカをさしおいて、世界最高の研究者集団を吸い寄せる求心力はとてもじゃないが当時の日本では厳しい。日本にマイクロソフト本社を移転させようと画策するようなものだ。

*2:南部ゴールドストン粒子の一種であり物質に質量を与える、LHCで検出予定