南部陽一郎の講演でスヤスヤ(略)の解説をはじめてみる(2)

前回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ寝ていた私がノーベル賞研究を解説する準備をはじめてみる

化学賞の分かりやすさはズルイよね。うらやましい。解説すると言った手前、どのレベルを目安にどういう形式にするか少し考えた。誰でも分かった気になれる・・・「やる夫シリーズ」???

   / ̄ ̄\ 
 /   _ノ  \ 
 |    ( ●)(●) 
. |     (__人__)   「やる夫で学ぶ自発的対象性の破れ」は無理だろ
  |     ` ⌒´ノ    常識的に考えて…
.  |         } 
.  ヽ        } 
   ヽ     ノ        \ 
   /    く  \        \ 
   |     \   \         \ 
    |    |ヽ、二⌒)、          \ 

20秒ほど考えたがつらいので諦める。キャラクタの出典や立ち振る舞いに疎い人間が知らずに地雷を踏みまくるのも一興だが、生兵法はケガのもとだ。餅は餅屋、アニメキャラやAAとのコラボはその手の専門家に。誰かやらないかな。

「ググってはみたものの意味不明」という状況から

とりあえず、こんな状況を仮定する。

ノーベル物理学賞で日本人が3人も受賞したというニュースをみる。しかし、「CP対称性」だとか「質量を獲得する」だとか意味不明なことばかり書かれている。記者わかって書いているのかこれ?とりあえずググる。『自発的対称性の破れ』っと。Wikipediaが出てくる。

http://tinyurl.com/4uu23k - Wikipedia 自発的対称性の破れ
自発的対称性の破れ(じはつてきたいしょうせいのやぶれ、spontaneous symmetry breaking)とは、場の基底状態に作用またはハミルトニアンを不変に保つような対称性があり、そのうち自然が無作為にある状態(真空)のみをとることで真空の対称性が壊れる現象やその過程を指す。対義語に力学的対称性の破れがある。

日本語でおk

ここからWikipediaのリンクを辿っていったとしても泥沼になるだけだ。調べれば調べる次々と新しい単語が出てきて、脳がサーキットブレーカーを発動する。学習停止。あたかも、「プログラムやってみたーい」と軽い気持ちでVisual Studio 買ってもらった小学生が、分からないことがあってMSDNライブラリという名の暗黒樹海に迷い込んだかのごとく。

記述と状況を整理しよう

まず受賞理由を基点に、関連しそうなキーワードを集めてみる。どのような用語が使われているかリストアップすることで全体像が少しずつ見えてくる。ノーベル財団のページ http://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2008/ では受賞理由を以下のように紹介している。

南部陽一郎
"for the discovery of the mechanism of spontaneous broken symmetry in subatomic physics" 
素粒子物理学における自発的対称性の破れの仕組みを発見

小林誠 益川敏英
"for the discovery of the origin of the broken symmetry which predicts the existence of at least three families of quarks in nature"
クォークが三世代以上あることを予言する対称性の破れの起源を発見

どうも、「自発的な破れ」と「クォーク3世代」が核となるキーワードらしい。そして両方に共通して「対称性の破れ」というキーワードが存在している。この「対称性の破れ」は20世紀後半の物理学を代表する概念のひとつで、特に素粒子物理における重要キーワードになっている。

この暗号文に今すぐ飛びつくのは無謀なので置いといて、ニュースやブログなどで出てくる文章やキーワードをもう少し探ってみる。

  1. 原子 / 原子核 / クォーク / レプトン / 中間子 / 左巻きの粒子
  2. 4つの力 / フレーバー / 固有状態 / 場 / スピン / ラグランジアン / ハミルトニアン / 基底状態
  3. 質量の起源・質量を獲得する / ヒッグス粒子 / 真空の自由度
  4. カビボ小林益川行列 / 小林益川理論 / CKM行列 / KM行列
  5. 標準理論 / 素粒子標準模型 / Bファクトリー / ニュートリノ振動
  6. 物質と反物質の間の非対称性 / ビッグバンと物質の起源
  7. CP対称性の破れ / パリティ / 混交角 / カイラル対称性 / ゲージ対称性
  8. カビボ涙目wwww / 戸塚さんが生きていれば・・・

主要な単語はこんな感じになるが、マジックワードのオンパレードだ。ニュースの編集者がどういう気持ちで作文しているのか想像に難くない。大量に出てきたキーワードをとりあえず整理しよう。でないと、例えば下の説明がいきなり来たとしても困ってしまう。

  1. 原子の中心には原子核が存在し、外側には電子が存在する。原子核は陽子と中性子によって構成されている。陽子や中性子はさらに基礎的な粒子であるクォークが3つ集まってできた複合粒子。実は陽子や中性子の仲間*1は何百種類と存在し、それらは3世代(6種類)のクォークの組み合わせによって説明される。
  2. クォークの相互作用の状態は混ざり合っている。混ざり合いをあらわすパラメタの集合は混交行列(CKM行列)に格納されている。『クォークの世代数がN=混交行列がN次行列
  3. 混交行列が3次以上であれば、直交回転行列で表現できなくなる。なぜならN次の混交行列と直交回転行列に対して使えるパラメタの数を比較すると「(N-1)^2 > N(N-1)/2」*2
  4. このとき直交回転パラメタからあぶれた残りの(N-1)(N-2)/2個のパラメタは位相因子e^(iθ)となって、CP対称性を破る。N≧3で必然的に現れる。
  5. K中間子の実験によるとCP対称性は破れている、すなわちクォークは三世代以上必要
  6. CP対称性の破れがあると、物質と反物質の間に非対称が生じる。ビッグバン直後の灼熱の世界で物質と反物質は対生成されるが、両者にはわずかな非対称性が存在して物質だけが生き残る。この世界に物質はあふれているが、反物質はほとんど存在しないことの一部を説明する。

いきなりこんな説明をしてよいのであれば、次は「自発的対称性の破れby南部」を説明して終わるのだけどそうもいかない。そもそも世代ってなんだろう、状態が混ざり合うってどういうこと?

次回、最も連呼されるマジックワード「世代」「対称性の破れ」「CP対称性」あたりを中心に、全体の枠組みと個々のキーワードについてフォロー。

(つづく)

第1回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ寝ていた私がノーベル賞研究を解説する準備をはじめてみる
第2回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ(略)の解説をはじめてみる(2)
第3回素粒子とは何か

理工系の学生で参考書を御所望とあれば、レベルに応じて何冊か紹介するけど需要はあるのだろうか。とりあえずは雑誌ニュートンに毛の生えたようなレベルで推移する予定。
そういえばKEKキッズサイエンティストのページってところどころ結構えぐいよね
http://www.kek.jp/kids/class/particle/cp.html 小林益川理論とは?』
誰を対象にしているんだろう。まさか子供向けじゃなかろう。

*1:バリオン

*2:例えば、N=3の時は、混交行列のパラメタが4つあるのに対して、回転行列は3次元空間の回転軸が独立に3つまでしか取れないのでパラメタは3つであり1つ足りない。