素粒子とは何か

予定が詰まるとこれだから困る。「今日こそは書こう」「いや、これを終わらせてから」と、ネタがガリレオ温度計のように浮かんでは沈みはや2週間が経過した。*1

ぷよぷよのしょぼしょぼ対戦動画をあげる。」「ノーベル賞の続き:素粒子って何?」「水星探査機メッセンジャーが世間的に無視されている件」「テトリスでひとり宇宙人いるよね」とオプションはいろいろあるが、とりあえず世間の話題から消えうせた感のあるノーベル賞の続き。

素粒子の大きさと位置づけ

現時点で我々が実験的に確認している限りの範囲で、「素粒子」は私たちの世界を構成する基本要素だ。それは力であり、物質であり、その振る舞いは素粒子のもつ基本的な対称性によって説明される。

素粒子は限りなく小さい。標準理論では大きさがゼロで構造をもたない点粒子として計算される。また実験上も完全な点とした模型からのズレは確認されていない。ZEUS実験では仮に大きさが存在したとしても、0.74E-18[m]よりは小さいことが確認されている。これはクォークがせいぜいで水素原子の1億分の1以下であることを意味する。1億倍というのはだいたいCD-Rと地球の差に相当する。

クォークの大きさに関する実験:横軸は加速器での衝突エネルギー、縦軸は点粒子模型からのズレ:クォークに内部構造があると値が1から外れる。下に曲がっている青い曲線は0.74am(アトメートル)の直径を仮定したときのズレ

素粒子の種類

素粒子が何種類あるかについては数え方によって答えがいくつかある。カラー(色荷)の違いを別カウントにするか、左巻きの電子と右巻きの電子を別にするか、粒子と反粒子を区別するかといった数え方の流儀による。カラーだとか巻き方については後ほど。

素粒子はまず大分類として、ゲージ粒子(力の粒子)と物質粒子が存在する。

物質粒子クォークレプトンという2種の粒子に大別される。クォーク原子核の奥に引きこもっているインドア派、原子核の構成メンバーである陽子や中性子あるいは中間子をつくっている材料だ。レプトンは電子やニュートリノのようにわりと外で遊びまわっているアウトドア派だ。原子核を10mの家にたとえると、電子は日本列島ぐらいの範囲が生活圏でこの生活圏を原子という。日雇いでエネルギーをもらって原子同士をくっつけたり切りはなす仕事をしている。ニュートリノは宇宙のどこかをふらついている、仕事はたまにする。他の物質と会っても挨拶しないで素通りする。

ゲージ粒子は力を媒介する粒子だ。ゲージ粒子は、自然界を支配する4つの基本的な相互作用に対応して4種類存在する。

  1. 光子(電磁気力):原子をつないだり、磁力だったり、電化製品を動かしたり忙しい。電荷に対して働く力。化学反応もキーボードを押す力も電磁気力のひとつの形だ。
  2. グルーオン(強い力)クォーク君の引きこもりパワー。原子核の中にウヨウヨいて内弁慶だが滅茶苦茶強い力だ。家出しようとするクォークを恐ろしい形相で原子の1/100000という狭い家に押しとどめる。電荷に似た「色荷(カラー)」という量に対して働く力、カラーを持っていないレプトンは感じない。カラー(色荷)はR・G・Bの3種類存在して、1種類しかない電荷よりすこし複雑な力だ。
  3. Z/Wボゾン(弱い力)素粒子をほかの素粒子に変える。この世界は核反応で元素レベルで移ろいゆく。ときどきしか仕事しないが重要な力だ。u・d・t・s・eといった素粒子の状態(これをフレーバーという)を引数にして働く。フレーバーは上の表にあるとおり、クォークレプトンで6種類づつ存在する。
  4. グラビトン(重力):星々をつなぎとめる。ドバイと恐竜の敵。未発見。質量(広義にはエネルギー)に対して作用する。

リストアップするとこんな感じ。一番有名なのは電磁気力をつかさどる光子だろう。光も電磁気力も我々に身近な存在だ。

今までのまとめ:素粒子にはゲージ粒子(力の粒子)と物質粒子の2種類があり、物質粒子はクォークレプトンの2種、ゲージ粒子は4種存在する。

素粒子の間に働く力

力はゲージ粒子によって媒介される。

「力の粒子」ってなにそれ?という疑問についてだが、「力」というものをミクロのレベルまで突き詰めてみると、素粒子レベルでの運動量(エネルギー) の貸借に還元できる。素粒子が他の素粒子に運動量を譲渡することで互いの運動(量)が変化する。このとき運動量やエネルギーの決済に用いられる証券が「ゲージ粒子」だ。

力の種類(ゲージ粒子の種類)、つまりエネルギーの決済方法は前述の通り4種類ある。

ここで「運動量」って何というひとはすべて「エネルギー」で置換してもらって特に問題はない。初等力学のレベルでは、(運動量)=(質量)x(速度)で表される。その総量は外界から運動量を加えない限り不変に保たれるため力学でとても重要な量になる。因みに相対性理論(自然単位系)では(運動量)=(エネルギー)x(速度)であらわされる。非相対論的な極限では(エネルギー)≒(質量)になるので先の式に一致する。

光子決済:電磁気力

一番、身近な電磁気力について紹介してみる。

頻繁に用いられるのが光子を利用した電磁気力という取引だ。電荷を持った粒子なら光子というエネルギー債権を発行する資格がある(上表参照)。右向きに進んでいた電子は (仮想)光子を発行することで、右向きの運動量を破棄し左に向きを変える。光子を受け取った別の電子は、右向きの運動量を獲得して軌道が変わる。

不渡り光子は発行できないので、電子が向きを変えられるのは運動量の受け手である他の電子がいるときに限られる。取引相手がいない場合は自分で買い取る羽目になる。そのため止まっている電子が勝手に光子を出して、その反動で動き出したりはしない。

ここで用いられる光子は真空という名の銀行から不確定性原理という手法をもちいて調達しているので、速やかに真空に返済する必要がある。量子論の効果により短期借入であればあるほど大量のエネルギーを借りられる。お互いの電子が近ければ近いほど決済時間が短くてすむため、沢山のエネルギーを取引することができる。これをマクロ世界から見ている私たちは、電荷をもった粒子がお互いに近づくほど強い力が働くと観測する。これが電磁気力のミクロでの説明。

素粒子の種類毎に決済権限が異なる。逆に言うと、4つの力へのアクセス権限で素粒子は分類できる。物質粒子の2大分類であるクォークレプトングルーオンの発行権限の有無できまる。クォーク達はグルーオンという地域通貨によって強固に結びついている。そのミクロの経済圏をバリオンといい、陽子や中性子の類を指している。

素粒子現象の1例:ΛだとかΞは陽子や中性子の仲間。陽子や中性子の眷族は何百種類も存在していて、それぞれ電荷や質量や寿命が異なる。それらが6種類(フレーバー)のクォークの組み合わせによって説明される。

(つづく)

第1回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ寝ていた私がノーベル賞研究を解説する準備をはじめてみる
第2回 南部陽一郎の講演でスヤスヤ(略)の解説をはじめてみる(2)
第3回素粒子とは何か

*1:前の週末に暇を見つけて2000文字ぐらい書いた気がするが、「下書き」が保存されておらず萎えて寝てからだと1週間。