サブプライムショック:金融工学にとって幸福な時代

今、経済学、特に金融工学をやっている人達がすこし羨ましい。

まさに変乱期、学問の黄金時代だ。いままでの常識で想定外の自体が連続的に発生した。なぜこのようなことが起きたかについて世間の関心も高い。現象の観測網やデータも過去に無いほど充実している。

学問にとって予想外のことが次々におこる時期ほど議論が活気付く時代はない。「100年に一度の津波」といった言葉が独り歩きした誇張表現でなければ、そのようなエキサイティングな時代をリアルタイムで体験しながら研究や勉強をおこなえる機会にめぐりあうのは僥倖といえる。

「大変!金融工学ちゃんが息をしてないの!」とか、「詐欺の道具」だとか「メッキが剥がれて完全に権威を失墜した」なんて言う人たちもいるようだけど、外見はともかく学問の中身は今が一番成長している時期だと思う。さまざまなモデルが再検討され、あたらしい説が生まれては死ぬ。既存の枠組みで対処可能なものであったとしても、今まで重視されていなかった側面に光が当てられ、理論は鍛えられて以前より強化される。商品乱造や顧客を言いくるめるために用いられた一時代の方便ではなく、科学として数千年先を見据えた成長を目指すなら乱世は避けて通れない道だ。

主張したり、悩んだり、だめだしされたり、存在価値が揺らいだり、妙に冷静になってみたり、何と言うか「金融工学は青春してるなー」と。

まあ、経済の学問スタイルや内実をあまりしらない外野が、隣の芝は青いと勝手に妄想しているだけではある。また、「トラブルや挫折は人を強くするよ。いつか懐かしむ日がくるさ。」的な安易な結論は、トラブルの質によっては洒落にならない。量子論の黎明期や高温超伝導体と違い、学術的な議場を大幅に超えて人間の利害に直接かつ即座に絡むウェットな研究テーマでは、すこしうつむきながら「勉強になりました」が精一杯で、「これで論文が書ける!」だとか僥倖発言などプライベートでも論外。社会的にまずいリアクションを受け取るリスクがある。