「大質量の天体」≠「地表重力が強い」:宇宙におけるサイズと密度の関係

海洋惑星の候補となるスーパーアース(GJ 1214b)が発見されたようだ。その話題で気づいたのだが「大きな惑星は当然重力が強い。人間が住むには不適だ。」そう漠然とイメージされているケースが多い印象を受けた。

小天体はともかく大型惑星の地表重力をその大きさだけでイメージすることはあまり望ましくない。例えば、太陽系の惑星の表面重力は以下の通りだ。

木星は300地球質量という莫大な物質を集積した惑星だが、それでも高々2.4Gしかない。人間が耐えられるレベルだ。他の大型惑星は地球と同等か、むしろ地球より表面重力が小さい天体さえある。系外惑星の例では木星より一回り大きな(HD 209458 b)の表面重力が0.9G程度だ*1。「比較対象がガス惑星ばっかりじゃねーか」という物言いは当然あるだろうが、地球型惑星でもそう事情はかわらない。今回発見されたGJ 1214bは地球よりずっと巨大な惑星だが表面重力は0.9Gしかない。地球より体重が軽くなるのだ。

重力を考えるには天体サイズだけでなく密度が無視できない

天体の表面重力はその質量に比例し半径の二乗に反比例する。質量は平均密度および半径の3乗に比例するので、表面重力gは平均密度\bar{\rho}と半径Rに比例する。

g=\frac{GM}{R^2}\propto \bar{\rho} R

ここで単純に「平均密度一定」を仮定して、惑星の大きさと重力はだいたい比例関係にあるとしたくなるが、天体の組成は多様であり、その平均密度には少々のサイズ差を打ち消せるばらつきが存在する。水星の半径は火星の70%しかなく小学生と大人くらい体格が違うが、密度が高いため火星より地表重力がすこし強い。

スーパーアースの重力は?

ではスーパーアースの密度と重力はどのような傾向だろう。地球は主に岩石や金属で構成されており、(地球型惑星では今のところ)最も高密度な天体に属する。その地球と同じ素材で質量を増やしていくとすると、表面重力は質量の3乗根で増加し、最大値はガス惑星になる臨界質量ギリギリのときで約2.2G (@10地球質量)だ。それ以上積み増すと大気が重力的に不安定になって周囲のガスを際限なくかぶ飲みし始めるので一気に密度と表面重力が低下する。

太陽が属するG型星では地球と同程度の高い密度を有したスーパーアースの観測例はあるようだ(CoRoT-7b)。

銀河の大部分を占めるM型星では、金属や岩石の集積だけで大質量を獲得するのは困難であり、GJ 1214bがそうであるように低密度な氷を大量に取り込む必要があるだろうから、地球とくらべて密度が小さくなることが予想出来る。氷惑星や海洋惑星の密度は2g/cc程度なので、1G前後を天井に分布するのではないかと予想する。

強大な地表重力を有したスーパーアース(たとえば10Gの地球型惑星)というのは考え難いのだが、こういう天体なりシナリオがあるよというのをご存知の方がいたら教えていただけると嬉しい。

もっと重量級の惑星、巨大ガス惑星の重力は?

もっと質量が大きいガス惑星ではどうだろう。ガス惑星は木星質量までは大した変化はない。しかし、木星質量を超えたあたりから様子がおかしくなる。自身の重さで惑星がつぶれはじめ体積がまったく増えなくなるのだ。増えないどころか逆にゆっくりと縮みはじめる。

質量を増やしても体積が増えないので、表面重力と平均密度は天井知らずで増加する。この傾向は核融合がはじまる0.08太陽質量(80木星質量)あたりまで続き*2、平均密度は金をはるかに超え、表面重力は三桁に達する。

太陽みたいな恒星の重力は?

天体の密度は恒星と惑星の中間である褐色矮星で最大値を記録したあと反転し、急速に低下していく。核融合がはじまると星の内部はもの凄く熱くなるためいっきに膨らむ。

恒星は重ければ重いほど大きく膨らむ。重ければ重いほど密度は低下し、重ければ重いほど表面重力も小さくなる。その膨張っぷりは下の図をみても想像できるだろう。右に行くほど重くて青い星になる。G型星とくらべて右端のO型星は何百倍もの体積を有しているが、その質量はせいぜい数十倍だ。大質量星は地球や太陽よりずっとスカスカだ。


いちおう大雑把な見積もり

星は重力をガス圧で支えているので、ガスの(熱)運動エネルギーと重力エネルギーは釣り合っている。また、水素の燃焼速度は温度変化に敏感であり、恒星内部の温度は質量に依らずほぼ一定である*3

\frac{GM}{R}\sim kT \sim const

ここからM/Rが一定、すなわち恒星の半径は質量に比例するという関係が得られる。また、密度は質量の二乗に反比例して急速に低下し、表面重力も質量に反比例することがわかる。*4

R\propto M
\bar{\rho} \propto M^{-2}
g \propto M^{-1}

太陽の17%の質量しかないバーナード星の重力は100Gを超えるが、太陽では30G、若い頃のメタボじゃないベテルギウス君が数Gといったところ。いまのベテルギウスは赤色超巨星になって太陽の1000倍ぐらいに膨らんでいるので、その表面重力は0.0005G程度しかない。巨星表面の重力的な結合は弱く、大量の物質が宇宙空間に流出している。

*1:かなり特異な惑星なので例に出すのが適当かあやしいが。

*2:もしこの宇宙の核融合臨界質量がもっと高かったら太陽質量くらいの天体は地球サイズまで潰れていただろう。それは核融合によるエネルギー供給が尽きた50億年後の太陽が見せる最期の姿(白色矮星)によく似ている。

*3:ちょっと温度が上がっただけで核反応が暴走するので、自己膨張による強力な温度フィードバックがかかる。

*4:より正確には大質量な星は少し高温になるため、質量に伴う半径の増加は1次よりやや鈍く、表面重力および密度の低下も小さくなる。あと、半径が質量に比例って、恒星だけじゃなくブラックホールにも当てはまる。