7TeV衝突実験開始 : LHCのビームについて

既に多くのニュースで報道されているように、重心系で7TeVの衝突実験が開始された。これは最高エネルギーの半分だしルミノシティもまだまだだけど、ようやく新世界へと本格的に踏み込んだ感じだ。残念がらここ数日は風邪を引いているのと他にやることがあり、分量のあるエントリを書く状況にはない。簡単にLHCビームについて紹介する。

LHCビームのパラメタで特に重要になるのは「エネルギー」と「ルミノシティ」だ。エネルギーは個々のビーム粒子がもっているエネルギーで、ルミノシティは粒子の総数(あるいは衝突イベント総数)だとイメージして構わない。新粒子発見には、それを生成出来るだけの衝突エネルギーがあるだけでなく、バックグラウンドと区別出来るくらい十分な回数の衝突を起こす必要がある。

報道などで出てくる7兆電子ボルト(7TeV)というエネルギーだが、8京1000兆ケルビンの陽子がもっている運動エネルギーに相当する。*1とはいえ、あくまで陽子一個のエネルギー、蚊の飛翔程度の運動エネルギーしか有していない。

ルミノシティを稼ぐために、ビームは蜘蛛の糸のようにミクロンオーダーまで細く絞って正面衝突させる。LHCは長さ数センチのパルスビームであり、パルスあたりの粒子数はまだ少ないが最終的には1000億個、だいたい銀河系に含まれる星の数ほどの陽子が詰められる予定だ。この銀河と銀河の衝突を1秒間に4000万回繰り返すことで、極まれな現象も見逃さないほどの膨大なデータを溜める。

陽子1個の運動エネルギーはマイクロジュールオーダーだが、パルスあたりだと100kJくらいにはなる。0.1ピコグラムという大腸菌一匹ほどの質量に自動車ほどの運動エネルギーを載せた格好だ。今はまだ周回しているパルスは少ないが最終的にはビームパルスを7.5mの間隔で回すことになる。

*1:RHICの4兆ケルビン(400MeV)と比較したくなるかも知れないが、向こうは何百という粒子にエネルギーが分配された火の玉の温度、こっち は衝突直前の二つの陽子の総和