大雨の激しさは何が限界を決めている?

広島で,10分間に20mm以上,1時間に130mm,あるいは2時間で200mmに達するような猛烈な雨が降り, 多数の土砂災害が発生した。

ただ,世界を見渡すと,1分間で38mm降っただとか(2280mm/h),8分で126mm降っただとか(945mm/h),瞬間的とはいえその10倍を超えるような想像を絶する短時間強雨の記録がある。降水強度は100mm/hあたりに物理的な限界があるわけではないようだ。

世界記録を確認するため米国海洋大気庁(NOAA)のサイトを覗いてみよう。

http://www.nws.noaa.gov/oh/hdsc/record_precip/record_precip_world.html
World record point precipitation measurements

時間が短いほど降水強度の記録が大きいことは当然に予想されたことだが*1,値を図1のようにプロットしてみると,大雑把に時間の -0.5乗に比例することに気づいた。しかも,恣意的に選んだごく狭いレンジではなく,上記リンクの全データ,1分から2年間にいたるまで幅広く成立する。


図1: 降水強度Rと継続時間Tの関係
横軸が時間(h)で縦軸が降水強度(mm/h)
○は実データであり,赤線は R=350/sqrt(T)

放射性壊変のように完全に独立な事象ならともかく,ある時刻の降水量と別の時刻の降水量が密接に繋がり,周期性や季節変化などもある現象で,単一の冪でこれだけ表現できるのは意外であった。

地球の平均降水量は0.1mm/h (~1000mm/y) ぐらいであり,雨の多いところで大雑把に1mm/h (10,000mm/y)なので,時間を大きくしていく極限では1mm/hくらいに収束するだろう*2。一方で,短時間の極限でどこまで降水強度が上がるのかはグラフや記録からは読み取れない。個々の雨粒を分解するような短い時間になると,適切な降水強度の定義を考える必要がありそうだ。

私は短時間強雨の世界記録がどういう物理によって制約されているのか不勉強で計算できる水準にない。(10m/s)*(10g/m^3) = 360mm/hなので,大雑把には空中に保持できる雨粒の限界と,地面に叩きつける速度,湿った温かい空気の供給速度などが,限界を決めているのだろうと想像しているが,細かなプロセスまで含めて基礎的な過程から導出したい。

そんなにすぐに答えが分かるとは期待していないが

検索すると,下のように個々の記録について評価したものや,あるいは図1と同じ内容のグラフはいくらか見つけた。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshwr/23/3/23_3_231/_pdf

(どういう物理でそうなっているのか知らないが)降水量は,対数正規分布に従うだとか,ガンマ分布に従うといった文献も見つけた。

気候によって冪が違うかも知れないし,オーストラリアの極値を見る限りでは,短時間極限で降水強度の頭打ちがあるようにも見える。

http://www.bom.gov.au/water/designRainfalls/rainfallEvents/worldRecRainfall.shtml

ちゃんとやるには片手間では済まず作業量が発散しそうなので,今日はこの辺で。

(詳しい方の解説は大歓迎です。)

*1:38mm/1minの記録が認定されていなかったり,126mm/8minの記録は真ん中で分割すると,どちらかの4分(<5分)で63mm以上降っている筈なので,63mm/5minの記録がその時間での世界記録にならない筈であることなど,データの扱いには幾らかの留意が必要

*2:極限といっても,Tが100億年を越える領域では,太陽の寿命が尽きるなどまったく異なる値に収束するだろうが