中性子爆弾とはなにか

中性子爆弾は水爆や原爆に次いで(日本では?)引用される弾頭のひとつだ。しかし、それがどのようなものなのか世間では漠然としていて正確なイメージが確立していない。中性子爆弾に言及する文章などでも「建物や兵器は無傷で残るが中にいる人間は放射線ですべて死亡する。」などというポエティックな表現がよく用いられる。流布する情報の希薄さ故か、仮想戦記などでも中性子爆弾を選択することが合目的でない場面でも平気で用いられ、ありえない描写が普通になされる。

中性子爆弾

中性子爆弾水素爆弾の一種だ。ただし、出力は通常の水爆よりも遥かに小さく、通常原爆よりも抑えられている。そのかわり、相対的に放射線のエネルギー割合が増大するよう設計されている。正確にはER (Enhanced Radiation)とよばれており、「放射線強化型」という直訳が実態をよく表している。爆発エネルギーを広島原爆より抑えつつ、放射線を広島原爆の数倍程度に強化したものだ。基本的に核兵器の効果は「放射線」「熱」「爆風」「電磁パルス」の4つの効果の混合であり、その割合と出力が異なるだけで中身はあまりかわらない。

爆風・熱

典型的な核出力は1ktで広島原爆の 1/10程度であり水爆としては異常な低出力だが、1ktでも爆風や熱の影響は相当なものであり、半径数百メートルを瓦礫に変え普通にきのこ雲が上がる。恐らく使用されても普通の人にはただの原子爆弾にしか見えないだろう。

参考までに1ktの爆発の映像を示す(注:通常爆薬)
http://www.metacafe.com/watch/315106/atomic_boom/

放射線

一方で、中性子線量が強化されており1km以内は致死的であり、3kmはなれたところでもある程度の殺傷能力がある。

中性子爆弾って何に使うの?

中性子爆弾は核戦争(第三次世界大戦?)下において、ソ連から西ヨーロッパに押し寄せる大量の機甲部隊を戦後の国土荒廃を抑えつつ、押しとどめることを目的の一つとして設計されている。

核兵器が使用される状況下で、戦艦(今はない)や戦車などの装甲体は爆風や熱および毒ガスや細菌兵器等に対して強い抵抗力を有している。毒ガスで戦車部隊を止めることは不可能であるし、原爆でも500m以下といった至近距離でないと即座に無力化することは難しい。中性子爆弾はそれらの装甲を透過して中の人間を直接攻撃する目的で使用される。

ただ放射線は即効性の代物ではない。中性子爆弾による700m以内の被爆(戦車内)でも24時間は生存する。

中性子爆弾はそれなりの役割を有しているものの、核ミサイルサイロや重工業地帯、都市攻撃などは通常の原水爆弾頭で十分いであり、中性子爆弾はかなり特殊用途だ。