隕石衝突がいかに眩しいか語ってみる

「よくテレビや映画では巨大隕石が衝突して爆風と津波が・・」という映像描写がCGなどでなされることがある。あの手の描写は様々な監修が入っているが、もちろんそのままでは絵にならないので、ある程度のテレビ向けのデフォルメが入っている。

そのひとつには明るさの調節がある。より写実的な映像をつくるなら衝突は真っ白な閃光につつまれて何も見えない。何故かというと、天体衝突はメチャクチャ明るいのだ。塵のように小さな流れ星でさえ、100km離れた地上の人間にはっきりと認識できるほどの光を放つ。

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隕石落下の目撃談では「太陽より明るい閃光が突然あらわれ・・・」という証言がよく見られるように、それほど大きくない隕石ですらその閃光は太陽を凌駕する。

そして巨大な小惑星や彗星が大気圏突入時に放つ閃光は核のそれより何桁も明るい。衝突によって形成される火球の放つ光は遠く離れた惑星からも視認できるほどだ。単純な計算では恐竜を絶滅させたとされる天体は1兆トン(直径10km)の質量をもっていたとされ、10^{23}-10^{24}Jのエネルギーを開放したと言われている。これは木星の1000倍の明るさの閃光を1時間にわたって保持することが可能なエネルギーだ。発生する火球の時間発展やタイムスケール、熱エネルギーへの分配率は異なるがこれは1MT水爆の1億倍に相当する。衝突火球のつくりだす熱線は地平線の内側のすべてを焼き尽くすのに十分な輻射エネルギーを有している。

火球の温度は資料や計算にもよるが、数万度(ある資料では6万℃、別の資料では2万℃)というのが典型的なライン。直径は100kmに達する。そしてこの規模の火球が発生させる閃光は単位視直径あたりで太陽の数百から1万倍。火球の大きさを考慮すれば仮に1000km離れていたとしても、数万から数百万の太陽が出現したのと同じ熱線が降り注ぐことになる。もちろん火球は放射に伴い急速に温度を低下させていくが、積分エネルギーは1000km地点で数億J/m^2に達する。

というわけで、巨大隕石が衝突する光景を目撃する人間は存在しないだろう。大気上層部にある時ですら閃光を直視することは物理的に不可能であるし(顔が炭化する)、このレベルの輻射に晒されればそもそも人体が形を保つことができない。まして、地面が捲れあがっていく様を見るなど望むべくも無い。

論より証拠ということで1994年に木星に衝突したシューメーカー・レヴィ第9彗星が発生させた火球の例を書こうと思ったが疲れたのでこの辺で。