金より高価な金属たちの世界

金は化学的な腐食に強く非常な柔軟性を持った不滅の貴金属として、古くから貨幣や宝飾品として用いられて来た。現在の価格はグラムあたり3000円だが、密度が高いので扱った実感としては1ccあたり6万円というほうしっくりくる。サラリーマンの生涯賃金が100kg(5L)の金と同じぐらいというと高いのか安いのか微妙なところ。もし価格が1桁大きく生涯賃金と500ccペットボトルが等価だったらなんだか悲しくなるし、1/10の価格で1トン買えるようなら、「意外に安くね」という印象。

現在、金より高価な金属としてはプラチナが有名だ。グラム4500円といったところだが、金と違い昔から高かった訳ではない。20世紀初頭の万年筆や触媒需要として価格が数十倍に高騰するまでは、扱いも難しく使い道の無い金属だった。歴史上をみれば、古代には天から降ってきた金属(隕鉄)としてしか産出されなかった鉄が金の数倍の価格をつけていた時代がある。ナポレオンの時代にはアルミニウムが金を遥かに超える超高級金属として銀食器の代わりに用いられたこともある。アルミ食器で家が買えた時代だ。

様々な時代で金より高価な金属は存在したが、金ほど長きにわたって安定した価値を保った金属は無い。金は異なる時代の価値を比較する道しるべであり、その時代に金を超えた金属というのはその時代の特徴を反映していると言える。

現代を反映する金属としてはルテニウムがあげられる。グラムあたり2万円程度。白金鉱床からしか産出されず、年間産出量が30トンと極めて少ない割に、CPUやハードディスクなどエレクトロニクスに欠かせないものになっており、技術革新や需給変動によって激しく価格が変動する。

さらに高価な金属となると放射性元素があげられる。粗ウランは5円/g、プルトニウムは200円/gといったところだが、同位体や純度によっては価格が跳ね上がる。核兵器級のウラン235となるとグラムあたり6000円といったように価格が高騰する。金の2倍程度だが、この辺は需給関係によってかなり変わるし売買できるのは限られた人たちだけだ。高感度の煙検出器などに用いられるアメリシウム241は8万円/g程度だが、243となると1800万円/gに跳ね上がる。原子炉の中性子源などとして用いられるカリホルニウムに至っては252でグラムあたり60億円、249で200億円に達する。(ORNL 1998参照:wikipediaだと700億円/グラムとなっているが、出典と核種は何だろう。)

もっともカリホルニウムくらいになると取引単位がマイクログラム(せいぜいミリグラム)なので、キロ20兆円の価格に特に意味は無い。


加速器で作られるような元素(原子番号115とか)も加速器ランニングコストを生成粒子数で割れば、一応価格みたいなものも出せるだろうが意味のある数字ではない。100億円の加速器で目的の原子核が10個作れたとしたら原子1個あたり10億円。一応10^30円/gとかそのくらいになる。生成数を考えたら、ヒッグス粒子とかマイクロブラックホール(あれば)の方がまだ安いだろう。