犯罪統計の読み方がよくわからない件

警察庁の「犯罪統計」によると2007年度の殺人事件の認知件数が1199人で戦後最低を記録したそうだ。殺人認知件数は数十年のスケールで減少傾向にあり昨年度の数値は30年前の半分以下、諸外国と比較しても件数でアメリカの1/18、率で1/8という数値水準だが、条件や統計が異なるため安直な比較は危険だ。

まず、発生件数と認知件数と検挙件数と起訴件数と有罪確定件数はまったく異なり、それぞれの関連を押さえる必要がある。警察では業績評価に対するノルマ設定があり認知件数と配分は部署レベルで調整されている。近年では検挙率に注目が集まっており、放置自転車(盗難自転車)の無断取得に対する遺失物等横領での取り締まり強化などでのノルマ確保が往々にして行われている。また、時代や社会によって重点的に取り締まる犯罪は異なる。たとえば近年ストーカー事案の取り扱い件数が急増しているが、これは「昔はストーカー被害が少なかった」ことを意味しない。その他にも、犯罪統計にはいくつもの留意事項が含まれている。

統計量はそれ自体ではただの数字だ。それを適切に処理し、様々な社会的な状況や因子を考慮した解釈があって初めてデータとしての意味をもつ。数値だけを見て「メディアは犯罪の増加を盛んに報道するけど現実には減ってるじゃん。」とか「外国人や未成年の犯罪が凶悪化する近年、・・・」みたいに治安悪化・改善に飛びつくことは不可能だ。

外国人の犯罪についても同様といえる。認知件数は増えているがこれは外国人の母体数が増えていることを考えれば驚くに値しない。発生率を見る限りではむしろ減っている統計もあり、簡単に増減や高低について言及する事はできない。外国人を来日外国人と定住外国人に分けた上で短期滞在の来日外国人に焦点を絞り、「外国人窃盗団などによる被害が増え来日外国人の犯罪発生率が急増している」というような言説はたまに聞くが、何百万という観光客やビジネス客の中で外国人窃盗団は極めてミクロな存在であり、また(増加傾向にあるにせよ)元より来日外国人の犯罪発生率は邦人と比べてすら低いレベルにある。だからといって「むしろ日本人の方が犯罪を沢山犯している。」と早合点するのは医者と兵庫県民を比べるようなものだ。

一方、定住外国人に関して言えば、国籍ごとにかなりばらつきがあるし統計数が少ないので誤差も大きいが、犯罪発生率は概ね邦人の数倍程度だ。数倍と言っても人口比を考えれば日本の犯罪全体に大きなウェイトを占めるレベルにない。また発生率の数値にしても「外国人であること」に要因を求めるのは早計だ。犯罪発生率は人口ピラミッドと経済状態の影響を極めて強く受ける。20代青年層を中心とした母集団ならば(国籍とは無関係に)自然と発生率は大きな値になる。また失業率や平均賃金は犯罪発生率と強い相関がある。特に失業率は国や時代を問わず犯罪発生率のグラフを再現する最も強力な説明変数であり、両者は時間の関数で連動する。邦人であろうが外国人であろうが、失業率が高く劣悪な労働環境にあれば犯罪発生率が増加することに違いはない。その2因子の影響を考えただけでも、「外国人であること」を犯罪発生率の因子と結びつけることがいかに困難であるかわかる。

「結局統計なんて何でも言えるし、何も言えないのだよフフン。」みたいな頭の悪い相対化に安住するつもりは無いし、犯罪統計とその周辺の種々の因子をほとんど把握できていないところが大きいが、私は犯罪統計を活用して情報を読み取れる段階には至っていない。まだ、各々の数値をどう読むべきかさっぱりわからない。もっと、情報を集めないとね。