宇宙から飛び降りた人たちの話

レミング、或いは、天から降りそそぐものが世界記録を作ったり作らなかったりする話

スカイダイビングの高度記録は31,330mとされている。1960年に米空軍のProject ExcelsiorでJoseph Kittingerによって達成され、この偉業は現在も破られていない。これは成層圏の中ほどであり、気圧は地上の1/100とほぼ真空で気温は零下70度まで下がる。宇宙服無しには生きていけない世界だ。空は真っ黒く染まり青い光に覆われた丸い地球が見える。衛星軌道と変わらない光景がそこには広がっている。

この高さから飛び降りた人たちがいる。

空気抵抗は少なく地球の重力によってグングン加速され、対流圏界面付近では遷音速、場合によっては超音速に到達する。おそらく、生身の人間が音速を超える唯一の方法だ。一連の実験で最高速度は時速1149kmに達したとも言われている。

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元々、高々度偵察機*1からのパラシュート脱出を調べる実験で、遷音速問題や高速スピンなどの重大なリスクに対処するために行われた。成層圏に放り出された人体はものすごい速さで落ちていき、わずかなきっかけで毎分100回転を超えるキリモミ状態に陥ってしまう。そのままでは、気絶したまま地表に叩きつけられることになる。そうでなくとも、音の壁という不気味な悪魔がすぐそこに佇んでいる。

成層圏からのスカイダイビングには惹かれるものがあり体験してみたいが、通常のダイブですら数万はかかり、成層圏ともなると懐的にとても厳しい。また、リスクを受けるには相当の経験と習熟が必要になり、とても一朝一夕で身につけられるものではない。

そんな無謀な記録を塗り替えようとしている、物好きが何人もいるようだ。仏退役将校のMichel Fournier、米国人のCheryl Stearns、オージーのRodd Millner 、・・・

超音速スカイダイビングに挑む冒険家(上) | WIRED VISION

フルニエ氏は高さ95メートルもあるヘリウムガス気球に乗り込み、カナダ、サスカチェワン州の何もない広大な草原の上空を、2時間半かけて高度4万メートルまで上昇する予定だ。気球はフルニエ氏の挑戦のために特別にあつらえられた。

 エベレストの4倍以上の高さの、まさに宇宙との境目といえるその位置で、フルニエ氏は気球から飛び降り、6分間におよぶ落下を開始する。フルニエ氏の落下時の速度は、時速1200〜1600キロメートルに達するともの予測される。

この記事が書かれたのは2002年、いまだに記録を更新して生還したものはいない。現代版イカロスだと笑う人がいるかもしれないが、私はそうは思わない。

マッドだとは思うけど、彼等が歴史を作ってきたのだ。

*1:高高度偵察機:要するにU2のことだと思われる。