レーザーは回避可能

向こうからレーザーが飛んでくる。

超高真空の宇宙でチンダル現象を発生させながら。*1

それを目視して「避けろー!」と叫んで床に伏せたり、突き飛ばしたり、あるいは打ち返す。

そんなSFの一幕にツッコミを入れるのは、「なんで真っ黒な宇宙空間を背景にしながら、軍用艦が赤だの白だの目立つ色なんだ」と問うくらい野暮なこととされる。

レーザーは光速であり、レーザーが見えたということは既に本人に当たっているということだ。光速飛来物の完全回避は流石に無理がある。しかし、そのエネルギーの大部分から逃れるという実質的な回避なら物理的にも可能かもしれない。とりあえず「照射時間」と「立ち上がり時間について考えてみる」

照射時間

レーザーが標的に照射されてから損害が発生するまでの時間は無限小ではない。照射時間に比べて回避行動が十分に高速であれば実質的に回避したと見なすことができる。

たとえば10秒間の照射で深刻な被害を生む軍用レーザーを仮定する。これに対して1ミリ秒でセンシングと回避行動を終了させれることができれば、受け取るエネルギーを0.01%まで減らすことができる。100kWsecと10Wsecでは効果が全く違う。

立ち上がり時間

レーザーの強度はスイッチをいれた瞬間にフルパワーになるわけではない。これはレーザーに限った話ではなく、何かが変化するにはマイクロ秒なりナノ秒なりの時間経過が必要だ。車はアクセルを踏んだ瞬間に時速100kmになったりしないし、スイッチをいれた瞬間に電球が最大輝度になるわけではない。

例えば、レーザーの立ち上がり時間を10nsとして、ターゲットは光速の50%で移動可能とすると、レーザーの強度がまだ弱いうちに1.5mは移動できる。人間や我々の知っている機会ではとても現実的な数値ではないけど、SFに出てくるような超スペックの何かなら不可能ではないかも知れないね。

とはいえ現実は甘くない

この方法だと、レーザーの強度が上がれば上がるほど、また立ち上がり時間が短くなるほど勝負は厳しくなっていく。レーザー核融合で使われるようなペタワット級のレーザーなら1nsで1MJ落ちることになる。光速で移動したところで照射終了までに10センチも動けない。また立ち上がり時間もps(ピコ秒)のオーダーだ。これは光が300ミクロン進む時間に相当する。

そこまでパルス圧縮するとMJクラスの大きなエネルギーを運ぶのは困難になるし、大気中は飛べないし、装置のスケールも実用的ではなくなるが、どんなレーザーにも対応できるわけではない。

また、生身の人間は反応までに0.1秒はかかるし、1Wに満たないレーザーで容易に失明する。センサー系を破壊するだけならキロジュールすら落とす必要は無いし、ミリセカンド以下での検知はともかく回避は現実の機械類では非常に難しい。

*1:レーザーの威力によらず、人間が失明しない程度にはマイルドだけど画面で描画できないほどには微かではない一定の散乱強度で。