二つの星がくっついた黄色食連超巨星の話

すこし天文分を補給。

「ピーナッツ型連星系」発見される スラッシュドット・ジャパン
LBT Discovery of a Yellow Supergiant Eclipsing Binary in the Dwarf Galaxy Holmberg IX1

宇宙にある恒星の恐らく半分が連星であることは優れて汎銀河的な教養であるが、残念ながら地球上では天体観測している人間ぐらいしか知らない瑣末なトリビアだ。連星同士の距離は冥王星軌道より遥かに長いものから、星の直径の数倍しかはなれていないものまで様々ある。中にはお互いに接触するまで接近している連星もあり、蝕連星(Eclipsing Binary)とか接触連星(Contact Binary)なんて呼ばれる。どちらかというとContact Binaryの方がメジャーだろう、多分。

上の写真をみると安定なのだろうかと不思議に思う人もいるかもしれないが、恒星、特にに巨星まで進化した星はその質量の大部分をコアに集中させている。そのため基本的に2つの質点で構成される回転座標系の重力ポテンシャルと同じだ。そのまわりをぼんやりとロッシュローブを満たしてあふれるような感じで外層ガスが覆いピーナッツ型の恒星が形成されている。

Contact Binaryの表面は静水圧平衡により当ポテンシャル面で等温・等圧となっており、お互いの質量によらず等しい輝度で輝いている。回転速度がRΩであらわされることからわかるようにドップラーシフトは回転軸からの距離Rに比例するため、スペクトルの広がりは星の形をそのまま反映してひょうたん型になるのが面白い。もちろんその進化が極めて特徴的であることは言うまでもない。

 超新星は花火ではなく竜巻のように

新聞を読んでいたら超新星は丸くないという研究が出ていた。超新星には謎が多いし、それほど詳しい訳ではないが、花火のような大爆発ではなくジェットに近いというのは直感的に正しい気がする。そしてその極限としてlong-timeのGRBが視野に入る。そういえばHSTがGRB080319Bを観測したみたいだ。

SNの重力崩壊シミュレーションはたくさんあるが、いまだに第一原理からの爆発に成功した例はない。重力崩壊のエネルギーは星を木っ端微塵に吹き飛ばすのに申し分ないが、いくらシミュレーションを行ってもグシャグシャとつぶれてどわーっと外層が反転するところまでは行くけど、途中でフニャフニャと衝撃波が萎えてしまう。エネルギーが脱出できないのだ。星を貫くジェットはどちらかというと作りやすいが、均一な大爆発となると一苦労だ。

原因は極限状態でのハドロン物性(つまるところEOS)がよくわからないことが第一だろう。数億テスラという超強磁場がぐるぐると渦巻く500億度に達する灼熱炉の中で、サンシャイン60を芥子粒ほどの領域に圧縮した高密度物質がどう振舞うのか。これについては理論的な不定性が大きい。

また、そもそものマクロなメカニズム挙動の観測に不明な点が多いことも上げられるだろう。100分の一秒というフィルムの一コマにも満たない世界*1、太陽の何倍もの質塊が山手線ぐらいの大きさまで押しつぶされた最終過程の先に何があるのか。時空が歪み、光に近い速さで物質が押しつぶされていく。角運動量保存の法則により、コアはアイススケートの高速スピンの要領で加速され毎秒数千回転に到達する。強力なジェットが発生することは確かだろう。もちろん外層はすべて吹き飛ばなければいけないので、ただジェットが吹き出すだけではだめだ。

ガシッと潰れてから、莫大なエネルギーが解放されるコマまでの間に起きること。

*1:重力崩壊から反転までは500msとゆっくりしているとの話もあるし、衝撃波が星の外層部に到達するのはもっと後の話。