海退の地政:海面低下の社会的影響を想像する
いつかくる海退期
地球史において海水面の高さは様々に変化してきた。例えば今から2万年前の海面高度は現在のそれと比べて約130m低く,日本列島は大陸とつながっていた。一方で0.6万年前は海面高度が現在より高く,埼玉は海に面していた。過去数百万年を振り返ると海面高度は100mくらい軽く変動し続けてきた。現在の海水面は温暖化により短期的には上昇傾向にあるが,気候と海が永遠でない以上,現在より低い時代はいつか来る。
海面低下によって水で隔てられた地域が次々と陸でつながっていく過程は社会に大きな影響を与えるだろう。海退がどのように進行していくかざっくりとみてみよう。
ここでは単純に現在の世界地図で海面を下げていったときの海岸線の変化のみに着目する。氷河形成や海面低下によるアイソスタシーの調節は考慮しない。減った海水は虚空に消え,大地は浮沈・摩耗・堆積のない剛体として考える。氷河形成や大氷河の麓に形成される巨大な湖も考えない。
地形データは以下のものを使用した。(ETOPO1: 雪氷あり)
https://www.ngdc.noaa.gov/mgg/global/
描画はGeneric Mapping Tools を使用した。
http://gmt.soest.hawaii.edu/
10m 低下(北方領土と北海道の融合等)
国後島が北海道と融合する。海水面が10m低下しただけで,ロシアと日本の実効支配地域は陸で繋がる。道東に軍事境界線のようなものが形成されるようになるかもしれないし,ロシア軍と自衛隊の衝突もあるかもしれない。
交通の要衝であるマラッカ海峡は,現在でも喫水20m程度に制約されているが,10m低下すると通行は更に困難になる。地域経済に与える影響は大きい。マラッカ運河のようなものが掘られるかもしれない。
500年前は干潮時に歩いて渡れたというインドとスリランカが再び繋がることも見逃せない。タミル人の済む土地が陸で繋がる。
30m 低下(ブリテン半島,スマトラ半島,伊勢湖,…)
九州,四国,本州は合体して一つの島になる可能性がある。東京湾や瀬戸内海が通れなくなり,伊勢湾は伊勢湖になる。歯舞島は北海道と融合する。北方領土のうち二島は,何万年後かしらないが,いつか北海道と融合するときがくる。(尖閣諸島は大陸だが)
イギリスは時間帯によって部分的に大陸と繋がり島国では無くなっているかもしれない。(十分に繋がるには40mはほしい)
交通の要衝であったマラッカ海峡は,このままだと完全に塞がる。ジャワ島あたりも大陸から伸びた半島になるので,海上交通は今と大きく様変わりしているだろう。
60m 低下(大陸結合)
東アジアの地政が大きく変わる。ロシアから人間や車が陸路で北海道に来られるようになる。大陸から台湾まで陸路でいけるようになる。その時代まで国境線というものが残っていたなら,突発的な事態による国境線の動きやすさがだいぶ違いそう。
ベーリング海峡が繋がり,アフリカからアジア・北米を経て南米まで陸路でいけるようになる,
120 m 低下 (2万年前相当)
かつて九州とよばれた土地が大陸と繋がるのはけっこう遅い
7000m 低下 (数億年後?)
海水面は気候等が理由で短期的(数千年〜数万年くらい)では上がったり下がったりしているが,長期的な視点(数億年〜)でみると低下傾向にある。40億年前は大きな大陸も無く惑星のほとんどを占めていたであろう海の面積はいまや地球表面の7割まで低下した。ここ数億年はマントルが冷えて海水をがぶ飲みできるようになったという話が出ており,地球の海の歴史も終盤に差し掛かったといえるかもしれない。
マントルへの海水の逆流の推定されるペースで海水喪失が続いた場合,地球を脱出しないことを選んだ数億年後の人類は,かつて海溝だった湖の畔(巨大地震による地殻変動がやばそう)に集まって暮らすことになるだろうと想像している。それ以外は果てしなく続く砂漠。太陽光度も数%上昇しそれなりに過酷な世界だ。