現代技術でメタルスライム族を乱獲するには

ドラゴンクエストIX国勢調査によると、もっとも狩られているモンスターはメタルキングだ。その数は2億匹を越え、人類の強欲によっていかに簡単に生物が絶滅させられ……という話はさておき、現代でメタルスライム族を狩るとしたらどういう手法があるだろう。

磁場

導体が強磁場を横切ると誘導電流が発生して、大きな制動が生じる。水飴で満たしたようにうごきを鈍らせることができるかもしれない。

また、強力な磁石がまかれた場所を、高速で突破しようとすれば、天空に弾き飛ばされることになる。メタルボディには不快な環境だ。

鉄のように磁石にくっつく体質な場合、捕まえるのはより簡単になる。一方、デイン系でまったくダメージを受けないことから室温超伝導体だと仮定した場合*1、別の調理法がある。

液体金属脆化

水銀やガリウムなどの液体金属は、メタルスライム族にとって猛毒になりうるだろう。身体を侵蝕しボロボロにしてしまう可能性がある。


液体窒素

液体窒素をかければカチコチにできる気がするのはターミネーター2のせい。多くの金属は低温で柔らかさを失い脆化する。場合によってはスズペストに罹ったオルガンのように破断するだろう。倒せないまでも大幅に防御力を落とせないかな。

ただ、冷えきる前に逃げられそう。

重火器

メタルスライム族が人間でも拳をあてられる程度の速度だというのなら、十分な連射速度と威力を有した火器で確実にとらえることが可能だろう。シリーズによるが防御力は1000程度なので、500強の攻撃力があれば一撃で葬ることができる。攻撃力が弱くとも、数発当てればよい。

メタルスライム族のはやさは公式動画をみても高々時速数十キロといったところなので、ミニガンをつんだヘリから逃れる術はないだろう。*2

どんなにすばやい生物も罠にはかかる

ところで、メタルスライムはネズミとりを回避できるほど頭がよいだろうか。

こういうので十分?

速度が仇になる罠がほしい。

速度センサーや仕掛け線に連動したトラップ、対金属粘着剤、追いこむように張られた網、ジャングルで鍛えられたブービートラップ、不用意にうごくほどリスクが増えるものがいい。

聖水

聖水に弱いケースがあるようだが、何が効いているのだろう。よく分からないので、王水で代用できるだろうか。メタルスライム族を溶かす酸も多分あるだろう。

その他

  1. メダパニは初期シリーズでよく知られる戦法だ。何らかのガスで無力化できるかもしれない。
  2. 最近のメタルスライム族は火炎耐性があるが、一時的な炎ではなく、テルミット反応みたいに厚い鋼鉄を溶融させるほどの熱になるとどうだろう。
  3. ある公式設定のように表皮だけがミスリル銀だとすると、ファラリスの雄牛のように火で炙り続ければ、中身にダメージが通りそう。
  4. メタルスライム族は水に沈む可能性がある。水場に追い込んだり、底なし沼に突き落とす作戦はありうる。
  5. メタルスライム族の養殖に成功したら村おこしになりそう。

*1:雷撃は高周波成分があるので表面抵抗は0ではない

*2:対ヘリだとラリホーは怖い

温度とは何か:負の絶対温度をめぐる疑問など

ひと月ほど前に流れた「負の絶対温度」のニュースに関して、興味をそそった反応をリストアップしておこう。

最初に、「永久機関が実現する!!!」みたいな反応は >/dev/null

2番目に、「負の温度がわからん」と言っている人がいる。ただ、このうち何パーセントが「正の温度」の定義を説明できるだろう。

3番目に、物理クラスターの一部だが、永久機関の実現といった誤解を打ち消すために、「レーザーの反転分布と同じ(笑)」などと、この研究の新奇性や研究グループ自体を過小評価する方々がいる。

この研究グループは、光格子を操ることにかけては世界最強クラスの実績がある。光格子における超流動Mott絶縁体転移や、量子気体顕微鏡による光格子1サイト内の原子観測といった、数々の偉業を達成している。また、多数の理論屋が在籍しており、理論面の基礎でミスを犯す可能性は低いだろう。既存体系を覆すような大発見ではないとはいえ、齧った程度で安易にdisれるほどつまらない成果でもないだろう

最後に、「負の温度がある場合、熱効率はどうなる?」「エネルギー表示の基本関係式が一価関数でないのは厄介なのでは?」といった疑問がある。負温度の熱力学はどのような姿をしているのだろう。

A1. まずは温度に対する日常的なイメージを忘れよう



Q. 温度とは何か


Q. 373Kの水と374Kの水蒸気では何が0.27%異なるのか







このQuestionに対してどう答えよう


図1.温度と体積変化と内部エネルギーは異なる量

温度は物体の内部エネルギーに比例しないし、熱膨張は一定ではない。浮世に理想気体は存在しないし、水銀温度計のメモリは厳密には等間隔ではない。別の量だ。

もちろん皮膚の刺激の強さに対応するわけでもない。皮膚は80℃のサウナより60℃のお湯を熱いと感じる。人体が感じる熱さは雑念になるので忘れよう。

温度の定義には「エントロピー」と呼ばれる小悪魔が住み着いている。それなしでも説明できるが、あったほうが幸せになれる。たぶん。

A2. エントロピー:熱を支配するもの

すこし復習


図2. 自然界は最大最小値問題に満ちている

物理学では現象をある関数の最大最小値問題として記述する手法がよく用いられる(図2)。例えば、光線sは屈折率分布nに対して光路長D(n,s)が最小になるように振る舞うし、粒子はその位置rや速度vに対して作用関数 ∫ L(r,v)dt を最小にするように運動する。

熱力学に関しても、内部エネルギーE、体積V、磁化M、……といった変数や拘束条件の組Xに対して、ある関数S(X)の最大値問題として記述することができる。

Sをエントロピーと呼び、自然なXによって書かれたS(X)は、対象の熱力学的情報をすべて含んでいる*1。例えば理想気体ならX=(E,V,N)に対して以下のS(X)がすべてを体現している。

 S(E,V,N) = NR ln\left( \left(\frac{E}{E_0}\right)^{c} \left(\frac{V}{V_0}\right) \left(\frac{N}{N_0}\right)^{-c-1}\right) + Ns_0

ここからPV=NRTやE=cNRTといった使いたい関係式を取り出すことができ、具体的な(E,V,N)を与えると、温度や化学ポテンシャルをはじめとした残りのすべての状態量が一つに定まる。*2

A3. 温度の定義

絶対温度TをS(X)の内部エネルギーE方向の傾きβで定義しよう。
(※ 簡単のためボルツマン定数kは1とする)


  \frac{1}{T} \equiv \beta \equiv \left(\frac{\partial S(E,N,V,M,......)}{\partial E} \right)_{N,V,M,......}

すこし説明


図3.2つの物体とエネルギーが移動する方向
aよりbの方が(∂S/∂E)が大きい。(∂S/∂E)が大きい方向にエネルギーの流れが生じる。bにΔE=0.1移ると、全体のエントロピーは0.19増加する。

図3のように宇宙に2つの物体a b のみが存在して、それぞれのエントロピーがSa(E)、Sb(E)とエネルギーの関数で書けるとしよう*3

両者を理想的な熱橋でつないで放置すると、全体のエントロピーS(=Sa+Sb)を増大させる方向にエネルギーの再配置が生じる。エネルギーにとって約束の地はエントロピー増加率β(=∂S/∂E)が大きい場所だ。βが大きいことを冷たい、小さいことを熱いと呼ぶことにする。

絶対温度Tはβの逆数として与えられる。日常生活ではTのほうが圧倒的に使うけど、物理学ではβもTも計算に応じて便利な方を使う。

エントロピーとβからみた熱いものと冷たいものが等温になる過程
  1. (孤立系の)全エントロピーSは常に増加する(ΔS=0の場合もある)
  2. エネルギーは熱いところ(β小)から冷たいところ(β大)に流れる
  3. S(E)は上に凸であり、Eが増えるほどβは小さくなる(Δβ=0の場合もある)
  4. 両者のβが等しくなった時、Sが最大(熱平衡)

A4. 負の温度は無限温度より熱い

もし、β<0になる物体があった場合、絶対温度T(=1/β)が負となることがわかる。物体をどんどん熱くして(β→小)、ついにβ=0に到達すると無限温度(T=±∞)であり、さらに熱くなってβ<0のときT<0でありこれを負の絶対温度という。


図4.温度の序列構造

βは符号によらず小さいほど熱い。β=+∞が最も冷たく、β=-∞が最も熱い。

Tは注意が必要で、T>0の範囲においてはTが大きいほど熱いが、T<0においてはTが小さいほど熱い。そしてT<0はあらゆるT>0より熱い。

(正の温度だけなら、カルノーサイクルで出入りする熱の比をもって絶対温度Tを定義するのが楽ちんだろうけど、負の温度を含むと議論がややこしい)

A5. 無限温度は世界を焼き尽くさない

  1. 無限温度(∂S/∂E)=0だからといってEが大きいとは限らない
  2. 無限温度は世界を焼きつくすとはいえない
  3. 負の温度(∂S/∂E)<0だからといってEが負であるとはいえない
  4. 同様に、負の温度も世界を焼きつくすとはいえない
  5. だたし、通常の物体は常に∂S/∂E>0であり負の温度にならない
  6. S ~ log E っぽいときE~T~1/β

A6. まとめ:エントロピーS、エネルギーE、温度T、逆温度βの関係

まとめると以下のようなグラフになる。


図5. S,E,T,βの関係

まず、エントロピーSは、エネルギーEが増大するにつれて増加していくが、S(E)が上に凸であるため傾き(β)は減少していく、鉄や空気のような普通の物質はいくらエネルギーが増加してもS(E)の傾きβが0 まで低下することはないが、特殊な系においてはSが最大値(β=0)を持ち、それを超えるエネルギーでは傾きが負になる。この領域が負の温度。

グラフ参照 http://www.quantum-munich.de/research/negative-absolute-temperature/

すこしだけミクロ状態の話

また、このエントリでは統計力学的な内容にあまり触れないが、図5では、ミクロ状態(例えば個別分子の運動エネルギー)の分布 n(E)が、正温度、無限温度、負温度の3つに対して描かれている(緑色の線)。n(E)はn(E)~exp(-βE) で表され、β>0の時は低エネルギー側に寄っているが、β=0でフラットになり、β<0では高エネルギー側に偏る。

総エネルギーはβが小さいほど大きい。

エントロピーはミクロ状態が全ての準位に均一に分布している時最大になり(β=0)、どちらかに偏っている時は小さくなる。
これに関してはC2の、参考リンクでいくつか説明されている


図6.ミクロ状態の分布と温度の関係
縦方向が個別粒子の持っているエネルギー(上が高エネルギー)。横方向は右に行くほど高温で、左が正の絶対温度、中央が無限温度、右側が負の絶対温度。無限温度や負の温度は、個別粒子のエネルギーに上限がある物体でしか成立しない。

さて実験のはなし、ここからすこし難しくなる

B1. 実験:今回の「負の温度」はどういう点が新しいか

この実験で使われている温度に関しては、"We use the textbook definition of temperature."と主張しているように、特に新しい温度を持ち出しているわけではないそうだ。

Negative Absolute Temperature for Motional Degrees of Freedom
http://www.sciencemag.org/content/339/6115/52

今回の研究で注目すべきは次の点だろう。

  1. 平衡状態
  2. 連続準位

B2. 実験:平衡状態を達成したのか?

特に、前者、どのくらい平衡状態とみなせるかはこの実験を評価する上でかなり重要な点だ。

基本的に熱力学は平衡状態のマクロ変数を記述する理論であり、上準位にポンピングしているような非平衡系に安易に適応することはできない。負温度の安定性からみても、完全な平衡状態を達成したとなれば一大事である。

当然、彼らも重要性は知っておりFAQで、レーザーのようなスイッチ切ればすぐ落下する軟弱者とは異なると強調している。

http://www.quantum-munich.de/research/negative-absolute-temperature/

Do your atoms really have negative absolute temperature or do they just behave like that?

Our atoms really have negative absolute temperature!
The way temperature is defined tells us the following: If a system thermalizes, i.e. tries to reach thermal equilibrium, and if we can describe the distribution of the system with some Boltzmann distribution, and if this distribution remains stable over some time, we know that the system has reached thermal equilibrium. We can then assign the corresponding temperature to the system. The system then really has this temperature. In our case, as the Boltzmann distribution of our atoms is inverted, this temperature is negative.

Do lasers also have a negative absolute temperature?

No! A temperature can only be assigned to a state in thermal equilibrium. This means states that, when left alone (when the system is thermally isolated) will remain stable and do not change over time. The particles in a laser medium do have an inverted energy population -more particles are in excited states than in low energy states- and their distribution looks indeed similar to a state at negative temperature. This inverted energy population, however, only exists as long as the laser is continuously pumped, i.e. particles are actively pumped into the exited states. When you switch-off the pump, all atoms will decay back into the lower state and their energy goes into the laser beam. So, while pumped, the laser medium is in asteady state, but not in a thermal state. It is not in thermal equilibrium and therefore cannot have a temperature.

読み違えている可能性が多いにあるが、論文を読む限り数百ミリ秒とそれなりに安定しているようであるし、コヒーレンスの崩壊時間も正温度と変わらないようなので、負温度に起因する不安定ではなさそうだ。

光格子からエネルギーをもらっている訳でもなさそうだし、フェッシュバッハ共鳴は磁場を固定した後は仕事をしない。特に外からエネルギーの補給を受けているようには見えない。

ただし、かなりこの分野は門外漢なので、細かい穴がどうなっているかを把握しきれているわけではない。真の平衡状態だと信じているわけではないのだが、指摘があると大変嬉しい。

物理クラスタはあっさりスルーしているけど、安定性に関する議論をもっと聞きたい。

B3. 実験の概要


図7.光格子


この実験では、光格子が六面八臂の活躍を見せている。レーザーの定在波をつかって光のグリッドをつくり、そこに粒子を流し込むと擬似的な結晶をつくることができる。

光格子が通常の結晶実験と異なるのは、その自在性である。無欠陥で不純物を含まない結晶をつくることができ、ポテンシャルの深さや格子間隔を自由に選ぶことが可能である。並べるのはボゾンでもフェルミオンでもよく、さらに、原子間相互作用を斥力から引力まで自由に変えることができる。ハバード模型のようなトイモデルを綺麗に再現するようなハミルトニアンを作ることができ、そのパラメータを自由に操作することができるのだ。

私が理解した範囲での、大雑把な実験レシピは

  1. 中華鍋ポテンシャルに、ボース=アインシュタイン凝縮の原子スープをおく
  2. ハミルトニアンを操作しMott絶縁体にして固めてしまう
  3. 固めている間に、中華鍋ポテンシャルを丘の上みたいなポテンシャルに置き換え、原子間相互作用も反転させる(斥力→引力)
  4. 再び絶縁体から溶かすとあらふしぎ、原子スープがポテンシャルの丘の上にあつまってなかなか落ちて来ません!
  5. 高エネルギーの方が多い状態になっている(負の温度)。しかも、結構安定している!(平衡?)

といったところ。

ちなみに、鍋や丘は光格子のポテンシャルに対応する凸凹がついている。速度分散だとかはトラップを切ってTOF (time of flight)で測っているらしい。普通の正温度で原子間相互作用を引力に変更するとBosenova とよばれる爆縮&爆発を起こすが、この状態ではそうではないらしい。

C1. 補足:マイナス温度の熱力学

再び熱力学の話

レーザーはの反転分布は非平衡系の話なので変なことが起きてもそこまで神経質になることはないし、スピン系負温度も現実には運動の自由度などと切り離せないので安定ではない。

対する安定な平衡状態としての「負の温度」が存在するかとなると、私はかなり疑わしく思っている。

負温度の物体に可逆仕事源を用いて仕事をすると、仕事をすることに何らかの制約を加えない限り、全体のエントロピーが減少していかにも苦しい。

また、内部エネルギーの不安定性も気になるところだ。負温度が存在する場合、内部エネルギーが自然な変数の組に対する一価関数でなくなってしまう。さらに悲惨なことに正温度と負温度でエネルギーの凸性が逆転しているようにみえる。これは(∂p/∂V)>0といった、悪質な関係式に繋がる。

ただ、負の温度では体積も圧力もマイナスとみなせば凸性は問題ないみたいな議論を聞いたこともあり、私の中で理解がまとまっていない。

この辺を詳しく知っている方がいたら話を伺いたい。

C2. 論文倫理:ダークエナジーが云々

最後に、ダークエナジー云々もdisられていた気がするが、これは別に論文の本筋じゃないので私は気にしない。超新星がどうのだとかモノポールがどうのみたいな記述にまったく眉をひそめないかと問われれば嘘になるが、ちょっと”壮大な”話を薬味として添えておくのは、さほどギルティではないと思う。

素粒子や宇宙だって、当人がどの程度信じているか疑われる”エキゾチックな”模型を引っ張ってきて唾だとかリミットをつけることはある。

無垢な記者が食いつくだろうことを知りつつ書くことの倫理的な是非については控えよう。

*1:自然なX:「自然な変数の組」については、適当な熱力学の参考書を参照されたし

*2:一応補足しておくと、エントロピーという関数が特別なのではなく、基本関係式と変数の組み合わせが凄い

*3:示量性はどうするの、というツッコミがあるかも知れないが そういう方は、適当に S(E)->εN*s(E/N)みたいな脳内補完で

*4:このエントリに関して助言を下さった某アカウントに感謝いたします

「質量に起源は必要か」 - 記者会見を控えた今、ヒッグス粒子を理解する

【告知】2012年7月4日16時(JST)に、欧州原子核研究機構CERNヒッグス粒子探索の最新結果について記者会見をするそうです。2011年末の発表では、”大変興味をそそる示唆”がみられたため、はるかに統計を増した今回の記者会見は期待が高まります。【ヤッター】

単純に「物には質量という生来のパラメタがある」で終わらせずに、複雑怪奇な「質量の起源」を外から持ってくるのはなぜだろう。

「前者のほうがはるかにシンプルな説明だ。何のために?」そう思うかもしれない。

ところで、わかりやすい説明は難しい?

A. たぶん難しい。

何かの拍子に、質量の起源やヒッグス粒子に興味をいだいて検索すると、原子炉に穴を開けてしまったかのように、よくわからないものが次から次へと吹き出してきて困惑することになる。

式で書けば数行で正確に表現できても、式を解説するには何冊も必要になる。自然言語で手短に話せばポエティックな模造品で、伝達には困難が伴う。

話題の発散を防ぐため、素粒子、力の粒子、あたりの単語は説明なしに扱うけど、一応解説リンク 
素粒子とは何か ACTIVE GALACTIC

さて本題、素粒子が質量を持っているのはまったく自明じゃない

問題:対称性は質量のハードコーディングを許さない

素粒子の世界ではたくさんの法(則)が発見されてきた。それらが「素粒子は法のもとに平等であるべきだ」という基本理念(対称性)から導かれる様子をイメージしてみよう。*1

ただ、平等理念をそのまま適用すると、素粒子に資産(質量)を与えることが禁止される。例えば、会計法に「ただし、オリンパスの資産は常に173.5兆円とする。」という条文を明示的に書いてしまうと、理念に反する上に、無限大の取引が行われるバグの温床になる*2

解決案:人間集団の自然発生的な格差を使う

そこで、人間の対称性を破ることで、法や平等理念の対称性を隠してしまうモデルを考えよう。人間は「平等な教育」という理念を形式的に維持しつつ、数学得意と数学苦手のように自発的に平等性が破れることがある。*3

さて、非零な格差期待値を持った社会が適当に選ばれた。

非対称や格差があると.....

法律の質量:力の粒子の質量

大きな格差が生じた社会では、それを補償する法体系が重厚長大なものになってしまう。法をすこし軌道修正するにも、あらゆる立場に対する調整コストが必要になる。*4

法人の質量:物質粒子の質量

物質粒子は法人になぞらえることができる。法人それ自体に本来質量はないが、人間の非対称によって自由に労働市場を動きまわることはできない。おなじ社会情勢でも、ペーパーカンパニーのようにほとんど無抵抗で動ける粒子もあれば、何十万という従業員が関連して身軽に動けない粒子もある。*5

まとめ

ざっくりとこん感じ

  1. 憲法・理念=対称性
  2. 法律=力の粒子(格差を呑みこんで重くなる)
  3. 法人=物質粒子(沢山の人間が関わるほど腰が重い)
  4. 人間=ヒッグス場・真空

実験:真空にエネルギーを注ぎこんで大事件を起こす

ただ想像するだけならミクロ世界のお伽話だ。実験で人間に相当するものの存在を確認したい。

ヒッグス粒子の生成

そこでビックバン直後に匹敵するエネルギー密度を社会に叩き込んで興奮状態を作り出し、革命や大規模な抗議運動を生成することを考えてみよう。温度に換算して数京ケルビンの一撃だ。場の励起状態として粒子が生成される。

ヒッグス粒子の崩壊シグナル

大規模な社会運動がすべての人間を目的にした重い組織を生成するように、ヒッグス粒子は重たい粒子に変化する。その特徴出来な信号を捉えるのだ。夢のあとに残るものは様々で、各々のシナリオで、それぞれヒッグス粒子の崩壊信号を捉えることで確度を高める。

測定時間は数年

放射線検出器でそこそこのCs-137を検出するには1時間程度の測定時間でいいが、ヒッグス粒子の検出は人類の限界に挑む行為であり、世界最高の設備で数年の測定時間が必要だ。スペクトルピークの位置すら未知なのだ。莫大な時間をかけてデータを蓄積し、様々な系統誤差を確実に絞め、ゆっくりと確度が増して行く。0か1かの1bit思考だと、フラストレーションがたまるので灰色がどんどん濃くなっていくのを楽しもう。

今回の記者会見で何が発表されるか全くわからないが、今年の中程から終わりにかけて、そろそろ人類が発見を宣言するのに十分なデータが貯まっていても可笑しくない。

さあ、答えはもうすぐやってくる。



公式URL等 (随時更新)

2012年7月4日 日本時間16時00分

  1. http://webcast.web.cern.ch/webcast/ Webcast ここで放送
  2. CERN to give update on Higgs search as curtain raiser to ICHEP conference CERNによるプレスリリース
  3. ICHEP 2012 Melbourne 素粒子物理学の国際会議

蛇足

極めて現実的道筋に欠ける話を加えるのは微妙だが、工学的な話が好きな方の為にすこし言及すると。万が一、ヒッグス場のパラメタを決めるメカニズムを制御することができるなら、W/Z-massをいじって放射性核種の半減期を操作したり、電子質量・原子半径を変更して果てしなく軽くてCNTを超える切断長の物質を作ることは、強ち不可能とも。

*1:マクスウェル方程式がU(1)対称性から導かれるように、自然界の相互作用は基本的な対称性に起因する。

*2:たとえば、粒子の散乱確率が無限大に発散

*3:説明に使った社会は、あくまでも解説のためのメタファーであって、現実社会とは違うし、ヒッグス機構と正確に対応している訳でもない。

*4:真空の対称性が破れることにより、今まで真空が持っていた4つ成分のうち3つを、力の粒子が吸収

*5:ヒッグス場と関わる程度の違いが、質量の違いに対応する

はてなブログへ移行すべきだろうか

現在、3つほど躊躇がある。

まず、IDでアンダーバーが使えない。id:active_galacticでとろうとしたらリジェクトされた。移行するなら新しいIDとして転生する必要がある。

次に、hatenablog.comやhateblo.jpに分散している意図がわからない。google検索の際に煩わしいし、どれがデファクトスタンダードで、どれがマイナードメインになるのか見極める時間が欲しい。

最後に、転生コストに見合うキラーコンテンツを把握していない。texがスゴク綺麗に出力されるだとか、論文をとりあえずメモっておけば管理ソフトのように使えるだとか、そういうものがあると飛びつきたくもなるが。

http://hatenablog.com/

さて、どうしよう。

コンパイル亡き後の「ぷよぷよまん」?

「赤ぷよ」を模した肉まんが、『ぷよぷよまん』という商品名で23日(月)から発売になった。

「ぷよぷよまん(あかぷよ)」発売決定!!

かつて地上に存在した『ぷよまん』とよばれる紅葉饅頭が、コンパイル(株)のメルトダウンと共に盛大に散華して幾星霜、ぷよまん復活計画も流れ果て、「一度は賞味しておけばよかった。今は10個入り3万円でも欲しい。」と嘆いていた頃が懐かしい。滅んだ文明を偲ばせるような中華まんだ。

ただ、その入手は「スライムまん」と比べてかなり難しいようだ。ファミマに通えば手に入る状況と異なり、該当する店舗が少ない上に、まだ入荷していないところが多いみたい。数日で全滅(全消し?)になることは無いかもしれないが、能動的に動かない限り遭遇する可能性は低い。

連鎖!

ぷよは4つで一連鎖だけど、普通の肉まんをお邪魔ぷよと見立てれば、おじゃま1匹と赤ぷよ8匹の合計9匹で、こんなふうに2連鎖を作ることができる。

計77匹いれば11連鎖も組めるようだけど、流石にこんなに買い集める狂人はいないはず。

連鎖の引用元:石川をぷよで染める会(ISP) KKKさん

太陽はどの方角に沈むか、任意の天体で

大学生の25%が日没の方角を知らないというニュースだが、私も任意の天体における東西南北の定義をちゃんと把握していないので五十歩百歩だ。金星や天王星トリトンみたいな例を即答できない。

北の定義とは? 何人が即答できるか

金星は自転と公転が逆だ。

(A)『一般に回転体の北極は角速度ベクトルの方向(その極からみると反時計回りに見える方向)として与えられる。自転軸(北)は公転面に対して177度傾いており、北極と南極の位置が地球からみて逆立ちしている。金星で太陽は西に沈む。』という解釈 (Fig1)が私にはしっくりくる。この北の定義は公転しない浮遊惑星にも適応できる。

Fig1. 金星と地球の自転公転関係

しかし、(B)『北極は公転面に対して地球と同じ側とする。自転軸の傾きは3度であり、周期マイナス243日の逆回転をしている。金星では太陽が西から昇って東に沈む。』みたいな解釈も見た記憶がある。北をなるべく揃えた方が扱いやすい場面は多いだろう。

どちらを北と呼ぶかの問題で、起きている現象は変わらないが、正式な定義はどうなのだろう。*1

東西の定義は?

ここでは南北を定義すると東西は地球と同じ関係になるよう脊髄反射的に与えてきたが、実際に東西はどう定義されるだろう。惑星の回る向きを東と定義するなら、後者(B)はFig2のように東が北に向かって左手になり、太陽は西に沈む。

Fig2. 東西が地球と逆?

あるいは、ダイソン球の内側から地面を見下ろす場合、そのような逆立ちした世界では、東西が反転するのか。

おらが村の東西南北

各々の天体から見た太陽の挙動を計算するのはただの算数だ。造作も無い。

しかし、それが東西南北という単語に結びつけるとなると、その定義が不勉強であやふやであることをそのニュースは気づかせてくれた。

横倒しで公転する天王星のどっちが北で、あるいは、海王星に対して軌道傾斜角156度で逆行回転してるトリトンのどっちの面を指して南半球と言っているのか(トリトンの自転と公転は同期している)、漫然と聞き流していたことを思い知らされた。

方位の定義について考えたこともなく生まれた土地から出たことの無い人間が「大学生は馬鹿だなあ。太陽は山側から昇るに決まってるだろ。」と言っているがごとし。

このエントリは解説ではなく反省日記。*2

※ 訂正:トリトン天王星の衛星と勘違いした記述がありましたが指摘により修正いたしました。ありがとうございます。

*1:ちなみに、自転軸のポラリス(現北極星)に近い側をもって北とする定義は、歳差運動もそうだが、奴は固有運動があるし老い先短い。

*2:「太陽はどの方角に沈むか」という問いには白夜・極夜解も含めないと恐らく不十分だろう。太陽に対して潮汐ロックされた天体から太陽はほぼ不動で沈みも上りもしないが、秤動があるので”永遠の夕焼け地帯”では同一方向での日没・日出がありうる。一般の天体では遡行があってよさそう。これが地平線と重なると日没は多少複雑に。アンリアリスティックだが8の字解みたいな特殊な配置の星系だと、もっと面白くて多様な解になるはず。