世界天文年:特異点から400年目

遅くなりましたが年始の挨拶を申し上げます。


2005年は国際物理年、2008年は国際惑星地球年ときて、今年2009年は国際天文年だそうだ。

今から400年前の1609年、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイは自作の天体望遠鏡による世界初の天体観測を行った。

現代の天文学において天体望遠鏡が担っている役割の重さを考えるだけでも、この年がどれほどの重量を帯びているか容易に理解できることだろう。まさに、1609年は天文学の歴史をまっぷたつに切断する大ナタであった。

天体観測の歴史は記録に残っているものだけで3万年前の洞窟*1、文明のはるか以前の氷河期までさかのぼる。それから1609年にいたるまでの数万年間、暦法や航海術あるいは占術・宗教儀礼といった様々な用途で天体観測は行われてきた。

しかし、それらはもっぱら人間の裸眼視力に頼ったものであった。原動力の歴史でいうなら、水車や家畜どころかテコや車輪すら発明されていないレベルだ。使えるものはただ一人の人間の腕力のみ、車ほどある岩なんて何百年踏ん張ったって動かせない。

宇宙には5つの惑星に月と太陽、天の川、そして数千の星しか存在しなかった。何万年観測したところで、どんな立派な天文台や神殿を作ったところで、それがかわることはなかった。

彼が天体望遠鏡でこじ開けた新世界は、彼自身が報告した観測結果だけでも当時の世界観に激震をもたらすものであったし、「望遠鏡」という手段の是非や意味も多くの議論を呼んだ。

1609年を起点として突然時計は動きだした。私たちが観測できる宇宙はより表情豊かに、そしてより外へ外へと拡大しはじめる。起伏に富んだ月面の山脈、金星の満ち欠け、極めて薄い回転のこぎりのような土星の輪、終末を迎えた巨星が吹き上げるガスの塊、活発に新しい星が生まれている暗黒星雲アンドロメダ銀河のうずまき、その先に広がる何億光年という深淵と銀河の集団、そして宇宙の黎明、まだ星が生まれていなかった暗黒時代、ビッグバンを思い出しながら冷たく眠る宇宙背景放射

私たちの外につながる広大な世界は、1609年のあの一歩がなければ決して見ることはなかっただろう。

*1:フランスのBlanchard洞窟:月の満ち欠けの記録